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in Coincidence (完)

Coincidence 28

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西田の言葉が何度も頭ん中で往復した後で
牧野の食前酒が空になっている事に気付く。
食前酒を食事中に少しずつ飲んだってことか?
よく顔を見ると、少しだけ頬と目の周りが赤いように思う。


『牧野、食前酒飲んだのか?』
『はい。折角なので少しずつ飲みました!』
『大丈夫か?口だけ付けて残しとけっつただろ。』


やべぇ。またキツイ口調になってしまった・・・。
それなのに牧野は、笑いながら(少し酔ってるのか?)
『大丈夫です。折角、支社長が選んでくださったのに、飲まないと勿体無いじゃないですか。』


なんて嬉しいことを言ってくるが、顔は少し赤いように思う。
勿体無いってなんなんだよ。
お前の身体の方が心配になるじゃねぇか。
そりゃ、酔ったところ見てみてぇなんて思ったけどよ。大丈夫なのか?


『本当に、大丈夫なんだな。』
『はい、大丈夫です。
最初飲んだ時は、何も無くって大丈夫って思ったんですけど。
直ぐに喉が熱くなって。ビックリしました。
でも、折角なのでこれだけは飲みたいなって思ったんです。』


食前酒で喉が熱くなるのか?
お前はどんな体質なんだよっ!
こいつ、飲み会とか大丈夫なのかっ!!
飲み会、参加してんのか?


そんなことを考えてる俺に
『支社長は、お優しいですね。大丈夫です。酔ってないですよ~。』
顔を右に傾け、笑いながら俺に言ってきた。
お前っ!それ犯罪だろっ。
なんで、首をかしげながら笑うんだよ。
ダメだっ。飲み会類は一切禁止だっ!!!


牧野のことだ。
今、俺と食事してんのも何も考えねぇで食ってんだろ。
次もって誘ったフランス料理のことも、純粋にナイフとフォークの練習の為に誘ったと思ってる可能性がかなり高ぇ。
俺は西田に言われたのが正しいって、考えて行動しねぇといけねぇって思ってんのに
こいつのこんな顔見てしまったら!!
頭ん中でスゲー勢いで警鐘がなる。
こいつを野放しにしてると危険だ。
早いこと、俺のものにしねぇといけねぇ。


俺が色々と考えてるっつー時も、牧野は
夏の料亭と同じようにニコニコしながら、旨そうに食ってる。


ギャルソンやメートル(ホール責任者)にもニコニコして…
なんで、ニコニコしてんだよっ。
お前は、飯くれる奴にはニコニコするのかよっ。
俺だけに笑ってくれたらいいのに。


俺の中で芽生えた嫉妬心。
今まで、こんな思いなんてしたことねぇ。
メイプルに移動中の車の中で小林と話していた時も、抵抗があった。
あの時は、抵抗はあったが屋敷の奴と牧野が仲良く話すのを、嬉しくも思えた。
そして同時に、社の若い奴だと許せねぇなんて考えがよぎったはずだ。


今も、ギャルソンやメートル笑いながら会釈している牧野に
それに応えてる、ギャルソンやメートルにイライラが止まらねぇ。
誰が悪いってわけじゃねぇのによ。
ギャルソンもメートルも仕事の一環として牧野に接しているつーのは理解わかってんだけどよ。
なんなんだよっ。このイライラしたのはっ!!


ダメだっ。イライラが治まらねぇ。
なんでもいいから、気を紛らわせねぇと。
そして、俺から出た言葉が・・・。







支社長って、すごく綺麗な手をしてるんだよ。
手が綺麗だけでなくって、
お箸の持ち方、使い方までキレイ。
お箸だけで、こんなに綺麗って思えるんだね。
男の人に使うのって変なのかもだけど、お箸の上げ下げすら色っぽい。
支社長の持つお箸、一つ一つの所作が美しいって言葉がピッタリ。
こんな風に綺麗にお箸を持てたらいいなとか思ってると。


『牧野は、どうしてポルトガル語に興味をもったんだ?』
支社長は、少しだけ怒ってるのかなぁって思うような口調で質問してきた。


『うちの父は小さいですが、ネジ工場を経営してて。
子供の頃にネジがいつから作られたのかを疑問に思い父に聞いたんです。
その話に、興味を持ったのが始まりだったと思います。』
年末には閉めてしまうけど、経営しててって言って良かったかな。


『それって、種子島に鉄砲が伝わってネジも同時に入ってきたって話か?』
『そうです。ご存知でしたか?鉄砲が入ってきた時にネジも入ってきたんですよ。』
知ってくれていたことに嬉しく思った私に、支社長は


『その鉄砲にネジが使われていたんだな。』
『そうです。当時、ネジが無かった日本では作るのに苦労したそうです。』
『日本最初のネジはどうやって作られたんだ?』


『鉄砲を高額で買った藩は、同じ物を作ろうとして、
藩の命令で加治屋さんが作ることになったんです。
でも、ネジの部分が、かなり難しかったようで・・・。
えっと。で、ですね。
加治屋さんは自分のお嬢さん・・・・。若狭さんってお名前だったんですけど、
その若狭さんをポルトガル人に嫁がせ、ネジの技術を教えてもらったそうなんです。
・・・・。なので、ネジは若狭さんのお蔭で日本に入ってきたんです。』


『でも、小さい頃は、この話を聞いて少し怖くなって。
知らない人、しかも外国の人と結婚して、言葉がわかったのかな?とか
お父さんと離れてポルトガルに行ってしまったのかな?とか
家族と離れて悲しくなかったのかなとか。
夜、寝る前に何度も若狭さんのその後が気になって仕方なかったんです。
ポルトガル語に興味を持ったのは父の仕事の影響ですね。』


私、少し酔っているのかな?
小さい頃の話なんてしだして・・・。
折角、支社長が選んでくれた食前酒だったから。
どんな味なんだろって思って飲んでみたくなったんだ。
支社長がどんなお酒を飲んでるのかなって思ったから。
今の飲んでるお酒も、私が飲んだら喉がキューって熱くなるのかな?


『そんな知らねぇ歴史があったなんてな。
鉄砲が種子島にポルトガル人によってもたらされたのは知ってけっど。
ネジがその時に来たとか、若狭って女のお蔭だとかは知らなかったよ。』
『あっ。それが本当かどうかまではわからないのですが、
今のところ、それ以前の日本にネジが無かったことから
そのように言われてるみたいです。』


そんな会話をしてると、待ちに待った!!デザートが来たの。
『うわ~。すごーい。キラキラしてる!』


やってしまった。
お店の前の人の前で、普通の声で・・・もしかすると、やや大きな声で言ってしまった・・・。
どうして、私は次から次へと、しなくていい事ばかりしてしまうのだろう。
お店の人は、私の失態にもニコって笑顔を返してくれたから、
私もニコッて出来てたかな?もしかしたらひきつっていたかもだけど笑い返した。
きっと、お店の人はきちんと教育されてるんだろうな。
私も道明寺の社員なのに、どうしてこんなに落ち着きがないのかな。


って、そもそも。
なんで私は支社長とご飯を食べてるの?
ミッションも終了した。
支社長も私が名乗らなかったことを気にされてなさそうだったよ。
しかも、次はナイフとフォークのお店に行こうとか言われなかった?
すごく嬉しくて「はいっ!」って返事してしまったけど。
ナイフとフォークだよ。大丈夫?私。
そんな、ナイフとフォークを使うお店できちんと出来るの?


いやいやいや、違う!!
次にナイフとフォークを使って食べることで無くって!!
どうして支社長とご飯を食べているのか、だよっ。
なんでかなぁ?
聞いてみる?失礼だよね。
「どうして、私は支社長とご飯を食べているのですか?」
これは、変だ。変すぎる。
こんなこと、聞けないっ。


普通で考えるとよ。
好きな人を誘って、ご飯に行くよね。
・・・・・。
支社長が私の事好き?
ないないないない!
でも、私のこと。きちんと覚えてくれてたよね。
いや、それは社員だからだよ。
私の思考、厚かましいにも程があるっ。



頭をフリフリしながらデザートに意識を集中させる。
デザートは、栗のプリンに洋ナシのコンポート。
正式名称は長々とあるんだろうけど、そんなの覚えていられない。
いただきまぁーす!


どっちから食べようかな?
後でさっぱりした方がいいかな??
なんて思いながら栗のプリンに口をつける。
『うーん。美味しい!!』
思わず、そう言いながら頬の右横でスプーンを軽く振ってしまった。


また、やってしまった。
ヤバいと思いながら、振ったスプーンを頬の右横そのままに支社長を見ると
支社長が嬉しそうに優しい表情で私を見てる。
ドッドッドッドッドッ
心臓がドキドキ動いてる。


私の心臓はバクバクしてるのに
支社長は
『旨いか?俺のも食うか?』
笑いながら言ってくるんだもん。
好きな人、目の前にしてバクバク食べるのもね。
いや、料亭の時も今日もバクバク食べてるけどさ。


うん?好きな人・・・?
好きな人って!!
私、支社長の事。好きなのかも・・・・・。
ううん。
好きになってしまったんだ。


どうしよう。
こんな気持ちになるなんて。
最初は怖いって思ってたのに。


いつから好きなの?
夏の時?今日なのかな?
支社長が優しい顔して、私の事見てくれると
それだけで、なんかキューンってなって。ドキドキして。
私の話を笑いながら聞いてくれるのが、すごく嬉しくって。
一緒に居たいって思えてきて。


今、その気持ちがすごく大きくなってる。
私、支社長の事が好きなんだ。











お読みいただきありがとうございます。

鉄砲や若狭さんの事は定説とされています。

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